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日本では美徳、海外では病気③-眠る子供は縦に育つ、寝ない大人は横に育つ-

【コラム】「寝る子は育つ」は本当だった:睡眠と成長ホルモン、そして健康の深い関係
「寝る子は育つ」という言葉を聞いたことがある人は多いでしょう。実はこれ、科学的にも裏付けがある立派な健康格言なのです。
■ 成長ホルモンは“深い眠り”で分泌される
人の体では、睡眠中に成長ホルモン(GH)が大量に分泌されます。
これは子どもにとっては身長の伸びや身体の発達に、大人にとっては筋肉の修復や肌のターンオーバーに関与し、健康と美容、さらには老化の予防にもつながっています。
特に分泌が活発になるのは、眠りの最初に訪れるノンレム睡眠の最も深い段階(深睡眠)。このタイミングでしっかり眠れているかがカギです。
■ 睡眠不足で「横に育つ」大人たち
面白いことに、睡眠時間が短い大人ほど太りやすいという研究結果があります。
これはホルモンバランスの崩れ、特に食欲を抑えるレプチンの減少や食欲を増すグレリンの増加が関係しており、寝不足が肥満のリスクを高めるのです。
「眠る子どもは縦に育ち、寝ない大人は横に育つ」
この言葉は、現代の健康問題を的確に表現しています。
■ 推奨される睡眠時間とは?
厚生労働省や米国睡眠財団(National Sleep Foundation)などによると、
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小学生は9〜11時間
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高校生は8〜10時間
しかし現実の日本社会では、塾や習い事、早すぎる登校時間により、慢性的な睡眠不足が進んでいるのが現状です。
一部の海外の学校では登校時間を遅らせることで、子どもの脳や学業成績に良い影響を与えているという報告もあります(Wheaton AG et al., MMWR Morb Mortal Wkly Rep, 2016)。
■ 睡眠と記憶力の関係:海馬の発達に注目
日本の研究機関では、5歳から18歳の子どもの脳のMRI画像を分析し、記憶を司る「海馬」のサイズと睡眠時間の関係を調べたところ、睡眠時間が長い子ほど海馬の体積が大きいという結果が出ました(※筑波大学の研究チームによる報告)。
これは、学習力や記憶力の発達において睡眠が非常に重要であることを示しています。なお、アルツハイマー病で最も早くダメージを受けるのも海馬です。
■ 昼寝の是非と生活リズムの工夫
生物学的に言えば、昼寝が必要なのは3〜4歳まで。5歳以降は基本的に必要ありません。
そのため、子どもと大人が同じ夜更かし・早起きのリズムで生活するのは望ましくありません。
大人の生活リズムを子どもに押し付けないこと。
そして大人自身も、しっかりとした睡眠時間を確保することで、トレーニングの効果や回復力、集中力の維持にも良い影響があります。
■ まとめ:質の高い睡眠が、健やかな成長と理想の身体をつくる
睡眠は単なる「休み」ではなく、身体をつくる最前線です。筋肉を育てたい方、美肌を目指す方、子どもの発育を心配する親御さん。すべての人にとって、睡眠は欠かせない「トレーニングの一部」と言えるでしょう。
【参考論文・文献】
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Van Cauter E, et al. Sleep and endocrine function. (Endocr Rev. 2000)
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Wheaton AG, Ferro GA, Croft JB. School Start Times for Middle School and High School Students — United States, 2011–12 School Year. (MMWR. 2016)
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柳沢正史 (筑波大学・睡眠医科学研究所):各種講演資料・著作より
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日本小児科学会:子どもの睡眠に関する提言